2019-01-01から1年間の記事一覧

東白楽駅

体なんていくらでもくれてやるから、代わりに誰かの温もりをずっと隣で感じていたかった。セックスなんてお安い御用だったし、女子大生というブランドさえあれば正直男には困らない。 私は今隣にいる男にさほど興味もなく、なんなら名前すら知らなかった。彼…

八丁畷駅

もう嫌気がさしていた。そこに弁解の余地などなかった。 なんと言われたって、泣きつかれたって、 頬をぶっ叩いてでも終わりにしようと決めていた。 真昼間の八丁畷。 頭の悪そうな女子高生たちが駅前のファミリーマート前に自転車を 停めて黄色い声をあげ…

みなとみらい駅

「なんだか納得のいってない顔だね」 父は私の顔を覗き込んで少し困ったように微笑んだ。控え目に目元に皺が刻み込まれているものの、57歳という年齢の割りにはハンサムだ。と私は常々思っている。そんな父は、私にとって自慢の父だったし、母よりも父の方が…

弘明寺駅

いつかがいつか来なくなることくらい、俺にだって分かっていた。 俺だって何度も女に口にしたいつかを名も知らぬ駅の道端に捨ててきた。それでも今回のいつかは実現しない訳なんてないと思っていた。油断していたのかもしれない。 ばあちゃんの危篤が伝えら…

多摩川駅

さよならの日だった。 彼はマフラーに顔を埋めながら、多摩川駅の閑散とした改札前の柱に寄りかかってこちらに軽く左手を上げた。忙しい彼が遅刻をせずに私を待っているのは珍しく、今日は雪でも降るのではと思いながら「お待たせ」と声をかけた。彼はいつも…